第二回「やもりの薬」

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ちなみに、お二人はネガティブな気持ちに打ち勝つ特効薬をなにかお持ちですか?
矢野
自分ができないって思ってステージ行くことないもの。私の場合は、よしやり遂げるぞっとは思ってない。よし楽しむぞってくらい。ステージの場合であればお客さんとなにか共有する、お客さんと一緒に楽しむ。そういうような気持ちでやってるんで。そこに新しい試みとかゲストがいるとか、挑戦となるようなことがあったとしても基本シェアする気持ちでやっているんであればなんとなくそこの延長でできるかなって。
森山
落ち込んだ時というのは、私は「神様、まだあなたは私をおはなしになってないんですね」って。別に私クリスチャンではないんですけども、まだあなたは私にこれを課されるのですかっていう。
矢野
試練っていう意味で?
森山
そうね。よっしゃぁ! やりましょう! うんと落ち込むと空を見上げて、もう一つこれ乗り越えなきゃ駄目なのかって。今時これくる? みたいな。でもこれはわかりました、乗り越えましょうみたいな。
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矢野さんはどうですか?
矢野
私は乗り越えないものそんなの。いいやぁ〜って。
森山
わかりやすい。なにその返事(笑)。

(一同爆笑)

森山
こんなにいい質問なのに(笑)。
矢野
フフフ。でも本当に乗り越えないの。ただ悲しい時は「ウェーン」って泣いてて、そのうち「ぐぅ〜〜」って寝ていたり。
森山
泣き寝入り(笑)。
矢野
それに、どんなに悲しくてもお腹が空くんでとにかく美味しいものを食べるとかよく眠るとか。あとはいいお酒をこういう時のために取って置いて開けるとか。
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森山さんもお酒は?
森山
私も何でもいけますよ。ちょっと今減らしましたけど。
矢野
あら。
森山
もう一生分を飲み干しましたから。
矢野
すご〜い。さすが!
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お二人の中で始まってはみたものの、終わらなかったものってありましたか?たとえば子育てなんかはどうでしょうか?
森山
私はないですね。終わりそうにもなかったら、自分で終わらせるって感じかしら。
矢野
子育てなんてすぐに終わっちゃいましたよ。あっという間に。
森山
逆に突っぱねないと変なことになっちゃう。いつまでも子育てしている人いますよね。もういい加減にはなして一個の人間として見ればいいのにって思うことありますよ。私の友達にもいますよ。以外に頭の良い子でも。
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矢野さんはどうですか?
矢野
終わらないもの…うーんないかな。っていうか今何にも考えてなかったの、ゴメンネ。さっき食べたカレーパンが切れてきちゃって(笑)。
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いえいえ(笑)。では質問を変えて、お二人はご自身をカッコいいと思われますか?
森山
いや、カッコいいというのはわからないですよね。自分では「テヘ」とか「おっとっとっと」っていうギリギリの所を「ふぅ〜」みたいに乗り越えてきたりしているので。
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周囲が抱いている印象ほどにご本人に余裕があるわけではない?
森山
もう、いっぱいいっぱいで乗り切ってきているというか。だからそんなにカッコよくスマートにやってこれるはずもないですしね。ぱっつんぱっつんの時もあるし、時によっては大きく物事が見える時もあるし。いつもスマートにやってられればいいんだけど、そうもいかない現実があるから。
矢野
でも同世代の、いわゆる「おばちゃん」と言われる世代になるわけじゃない私たちなんて。そういう人たちからはどういわれることが多い?
森山
う〜ん。「可愛い」って言われる。
矢野
あーそれは私もよく言われる。
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どう感じられるんですか?
矢野
よくわからないんですけどね。でも褒め言葉であることは確かだし、そこに憧れがあるんだろうなぁとは思う。たとえば大女優が立っている姿を見て「可愛い」とは思わないわけで。「綺麗」とか「ハァ〜」とは思うけどでもそこにその人と自分との連帯性はないわけ。
森山
うん。
矢野
たぶん森山さんがステージでバーンっとやっているとことか、ニコって笑っている姿を見て、私もあぁなれたらよかったのにっていう人は多いと思うの。
森山
そうねそういう人多いわよね。アッコちゃんもそうだと思う。可愛いなって思う部分がいっぱいあって。それが一つになって、歌の内容もそうだし、歌い方とか喋っていることとか着ているものとか全部の総合でイメージしたものが「可愛い」って言葉になるんじゃないかしら。だから意外と若い人もね、私たち見て「可愛い」って。私なんかかなり年上なのに「キャ〜カワイイ!」って言うの。なんかねちょっと嬉しい。どこが可愛いんだか自分ではよくわからないんだけど、「あっ可愛いんだぁ」って思うと(笑)、嬉しいなぁって。
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以前だったら反応は違いましたか?
矢野
40代になった頃、私一度、女性誌のカメラマンにキレたことありますよ。「あっ可愛いねぇ〜」って言われて。
森山
「おめぇに言われたきゃねぇやい!」みたいに?
矢野
冗談じゃない、「なんだって!」って。
森山
私の場合、若い頃は若かったから逆にあまり言われなかったですね。
矢野
今の可愛いとは違うんですよ。今のなんでも「カワイイ」っていう表現は多分この10年位のことで…まぁ適当に言ったんですけど(笑)。でも30年前は「可愛い」っていうのは本当に「可愛い」だったの。
森山
それこそお花だったり。
矢野
女性に対しては少女っぽいものだったり。だからそのカメラマンが当時の私を一人の女性として評価してなかったってことになるわけ。可愛いと言われたのは。本当にカメラを叩き壊してやろうかって思うくらい腹が立った。今でもすごく覚えてるくらい。
森山
怖い(笑)。
矢野
「帰る!」とか言って。そういうこともありましたけどね。今はね「可愛い」って言われたら「それだけかい?」って。もっと要求しちゃう(笑)。
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「可愛い」と言われるお二人ですが、子供の頃はどんなんだったのかが想像できてしまうというか。
やもり
なんで知ってるのよぉ〜(笑)。
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こんな子供だったんじゃないかっていうのが、音楽の中でも、ちょっと剥くと子供のまんまでいるっていうのが見える気が…。
森山
(笑)。だから可愛いって映るんじゃないのかな。
矢野
そっかそっか。
森山
なんていうのか、ファイト満々で元気いっぱいの子供がそのまんまいるっていう。だから年齢を重ねればかさねるほど、子供の部分がどんどん出てくるんじゃないかしら?
矢野
それもやっぱり50代も過ぎてくればほとんどの人がそうではないかなって思いますけど、自分の限界というのがわかるわけで。この辺をこういじってもたかが私だしっていうのが強くなってくるから。他人に自分を必要以上に良く見せようっていうのがなくなってくるのがきっと魅力の一つかもしれないですね。
森山
そうかもね。素でいられるっていうのかな。こうやってなくていいっていう。自分が自分以上でも自分以下でもないっていうなんかこうサラになちゃっているっていうか。飾る必要もないし引っ込む必要もないってことに気づいたのね。きっとそういうお年頃に達したってことじゃないかしら(笑)。
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「やもり」としての活動にも「素」のお二人が投影されている?
矢野
何一つ無理はしてないですね。
森山
もう本当にそれは(笑)。
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選曲でも?
矢野
てきとうに(笑)。
森山
話している間にね。「これいいねぇ」とか。
矢野
やってて「つまんないね」とか言ったりして。
森山
「曲が良くない!」とか言い始めたりして。
矢野
そうそう(笑)。
森山
「なんだこの詩」とか(笑)。
矢野
何の曲の時だっけそれ言ったの(笑)?
森山
あっ「故郷」よ!「兎追ひし かの山」。
矢野
「つまんない歌」とか言っちゃってるの(笑)。
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言っちゃいましたか(笑)。
森山
「なんかねぇ〜」とか言って(笑)。
矢野
もちろんプロとしては二人ともちゃんと歌えるんですよ。
森山
ただジャッジが二人ともはやいんですよね。「あっ止め!」って。
矢野
そうそう(笑)。半分くらい歌ってね。
森山
止めようかこれって。
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わかっちゃうんですかね?
矢野
そうそう。
森山
二人のモチベーションの中で生かされなかったり、「う〜〜ん?」っていうものはすぐに却下になっちゃった。だからすごくはやいですね。
矢野
いろんな曲を歌ってその中から生き残った、厳選されたものだけ入れているわけです。
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なるほど。
矢野
というわけで「故郷」はいくら名曲とはいえど、私たちの眼鏡にはかなわなかった(笑)。
森山
「やもり」としてはね。
矢野
安田姉妹とかに…
森山
お任せしておこうと。

第三回につづく

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